札幌市東区にある『東区みんなの歯科』です。当院では歯科訪問診療を行っております。
患者様、ご家族、介護事業所の皆様から頂いた質問に関してブログで説明しています。
本日は、『オーラルフレイル』についてお話ししたいと思います。
8020運動とオーラルフレイル
オーラルフレイルは、8020運動を基礎とした口腔の健康啓発運動の新たなスローガンです。8020運動は、80歳で20本以上の自分の歯を保つことを目標とし、これにより高齢になっても自分の歯で噛む楽しみを味わえることを目指してきました。この運動の成果として、2016年の歯科疾患実態調査によれば、80歳で20本以上の歯を保っている人は5割を超えています。
しかし、平均寿命が男女ともに80歳を超えた現在、単に歯の本数を保つだけでなく、口腔機能全体の健康維持が重要と認識されるようになっています。滑舌の低下、食べこぼし、わずかなむせ、かめない食品が増えるなど、口の些細なトラブルから始まるオーラルフレイルは、早期に気づき対応することで改善可能な状態です。このような背景から、口腔機能の衰えを軽視せず、積極的に対策する重要性が高まっており、オーラルフレイルという概念が提案されました。

オーラルフレイルとは?
オーラルフレイルは、口の機能の健常な状態(いわゆる『健口』)と『口の機能低下』との間にある状態です。具体的には、歯の喪失や食べること、話すことに代表されるさまざまな機能の「軽微な衰え」が重複し、口の機能低下の危険性が増加しているが、改善も可能な状態を指します。
オーラルフレイルが進行すると、口の機能低下だけでなく、低栄養、サルコペニア、身体的フレイル、社会的フレイル、精神心理的問題(うつ、認知機能の低下)など、全身の健康に影響を及ぼします。オーラルフレイルは自然な老化ではなく、適切な対応を行えば元の健康な状態に戻る可能性があるため、早期発見と対策が重要です。
3学会合同ステートメント
2024年4月1日、一般社団法人日本老年医学会、一般社団法人日本老年歯科医学会、一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会による3学会合同ステートメントが発表されました。オーラルフレイルの概念・定義が整理されたほか、国民がセルフチェック可能な新たな評価法が提唱され、歯科を中心とした多職種連携及び医科歯科連携の中で対応することが明確にされました。
Oral Frailty 5-item Checklist(OF-5)
新たに提唱された評価法「Oral Frailty 5-item Checklist(OF-5)」では、以下の5つの項目がチェックされます:
1. 残存歯数減少(自身の歯は、何本ありますか)
2. 咀嚼困難感(半年前と比べて固いものが食べにくくなりましたか)
3. 嚥下困難感(お茶や汁物等でむせることがありますか)
4. 口腔乾燥感(口の渇きが気になりますか)
5. 滑舌低下(舌口唇運動機能の低下)(普段の会話で、言葉をはっきりと発音できないことがありますか)
これらの項目のうち、2項目以上に該当する場合をオーラルフレイルと判定します。

柏スタディの研究結果
千葉県柏市で行われた「柏スタディ」では、オーラルフレイルと判定された人々が将来的にフレイル、サルコペニア、要介護認定、死亡のリスクが高いことが示されました。具体的には、オーラルフレイルを有する高齢者は、そうでない高齢者に比べて以下のリスクが高まることが報告されています:
・身体的フレイルの発生リスク:2.41倍
・サルコペニアの発生リスク:2.13倍
・要介護認定リスク:2.35倍
・死亡リスク:2.09倍
これらの結果は、口腔の機能低下が全身の健康状態に大きな影響を与えることを示しており、オーラルフレイル対策がフレイル、サルコペニア、要介護状態、死亡の予防に重要であることを示唆しています。
予防の重要性
オーラルフレイルは早期に発見し、適切に対応することで改善が可能な状態です。以下のような対策が有効です:
1. 定期的な歯科検診:早期発見と治療が重要です。
2. 口腔ケアの徹底:適切なブラッシングやフロスの使用、定期的なプロによるクリーニングが推奨されます。
3. バランスの取れた食事:栄養バランスの良い食事を心掛け、特にタンパク質やビタミンを多く摂るようにしましょう。
4. 口腔機能訓練:咀嚼や嚥下のトレーニングを行うことで、口の機能を維持・向上させることができます。
まとめ
オーラルフレイルは、口腔機能の低下が全身の健康に及ぼす影響が大きいため、予防と早期対応が非常に重要です。人生の最期まで美味しく食べてるために、適切な口腔ケアと口腔健康管理を心掛けましょう。
参考文献
・厚生労働省: 平成28年歯科疾患実態調査.
・一般社団法人日本老年医学会, 一般社団法人日本老年歯科医学会, 一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会: オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント, 2024.
・Tanaka, T. et al: Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 73, 1661-1667, 2018.
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